HAZY MOON
邂逅
祖母からの呼び出しで、わたしは祖父の病室にやってきていた。



「話ってなに?」


ベッドに座る祖父は、難しい顔で傍らに立つわたしを見つめた。


「尊くんから、跡取りの話を聞いたのか?」


一瞬、首筋がチリッと痛んだ気がした。

黙って頷いたわたしを見て、祖父が小さく息をついた。


「そのことで、おまえに謝らなければいけないことがある」


祖母がそっと立ち上がり、祖父の肩に手を当てた。


「……夕希さんが再婚を望んだ相手は、雅晴の親友だった」


梶先生が言っていたことは事実だった。
梶先生は、父の親友。


「彼の名前は春臣くんと言って……、雅晴亡き後、夕希さんを励ましてくれていた」


やっぱり、梶先生は親友である父の妻である母に……想いを寄せていたんだろうか……。



「雅晴が無くなって二年半後。春臣くんが夕希さんと一緒になると言いに来た」


母が、わたしでなく梶先生を選んだ瞬間。
わたしは……梶先生にとって邪魔な存在だから……。

俯いたわたしの耳に、一息置いた祖父の声が入った。


「雫希を引き取りたいと頭を下げに来た」


「えっ……」



思わず自分の耳を疑った。
話が違う。
梶先生は、母にわたしを置いて来るように言ったはず……。


「夕希と雫希を一緒に居させてやって欲しい……。そう言って頭を下げる彼を、儂らは断った。……卒業前の大学生のところに居るより、こっちに居る方が雫希は幸せだって言ってな……」


「そんな……」


気がつけば、口元を両手で覆っていた。
じゃあ梶先生は……わたしを引き取ろうとしてくれていたの?


「儂らも辛かったんだ……。雅晴の忘れ形見である雫希を幸せにしてやりたかった……」


「それで……尊と結婚して跡取りに?」


頷いた祖父の傍らで、祖母が涙ぐんだ瞳をわたしに向けて、


「ごめんなさい……ごめんなさい……」


こう何度も呟いていた。

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