HAZY MOON
静かな病室に、祖母が鼻を啜る声が響く。


「なぁ、雫希」


幾分落ち着きを取り戻した祖母の手に、手を重ねた祖父がわたしの名前を呼んだ。


「なに?」


「儂らを恨んでくれて構わん。その代わり……」


祖父と祖母の目が、同時にわたしを見つめる。
それを交互に見つめ返し、続きを待った。


「おまえは雅晴と夕希さんの分まで……幸せになってくれ」



祖父がギュッと目を閉じる。
苦しそうなその表情が見ていられなくて、わたしは口を開いた。


「お祖父ちゃん」


「…………」


祖父は何も言わず、閉じていた瞳を開いた。


「わたし……お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの孫に生まれて良かった。お父さんとお母さんの分も、沢山愛してくれてありがとう」


心からそう思う。
わたしは……見えない沢山の愛に守られていたんだって……。


「雫希……」


「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんがくれた愛。今度はわたしが与えられる人間になりたいっ」


自然と顔が綻び、何日ぶりかの笑顔が溢れ出した。


祖母はまた涙腺を緩ませ、わたしは祖父と顔を見合わせて笑った。



お母さんが望んでいた笑顔。
ここ何日かずっと忘れていた。
でも、もう絶やすようなことはしない。


お父さんとお母さんの分まで、幸せになるって約束したから。

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