HAZY MOON
今日は、母の一周忌。


今日は学校は休んだ。
十二年ぶりに会いに行く母と、ゆっくり話がしたかったから。


「雫希っ」

「……尊」


玄関を出たわたしを待ち受けていたのは、学校に行っているはずの尊だった。


尊に会うのは、あの日以来。
尊は渋い顔でゆっくりとわたしに近付いた。

そして、


「ごめんっ」


わたしの前で勢い良く頭を下げた。


突然のことで驚きを隠せないわたしに、


「おまえに、最低なこと言った……本当にごめんっ」


尊はそのままで言葉を続けていく。

どうしようかと、散々戸惑った挙げ句、


「みっともないから顔上げてっ」


怒り混じりにぶっきらぼうに言って、わたしは尊の顔を上げさせた。


顔を上げた尊は、気まずそうに髪を掻き上げる。


「言い訳、聞くだけなら聞くよ? わたしが嫌いで恨み晴らしたかったとか?」


そんな尊に、わざとストレートな言葉をぶつけた。
それに驚いて目を見開いた尊は、慌てて首を左右に振ってみせる。


「違う。……雫希、最近ずっと何か悩んでただろ? 俺に何も言ってくれないから……」


ポツポツと呟いていく尊は、何時になく心細そうに見えた。

あぁ。コイツもこんな顔するんだ……。
そう思ったら、何だか可笑しい。


「なんだ。ヤキモチ?」


まるでからかうような口振りで笑い、尊を見上げる。

一瞬驚いた後、不満げに視線を逸らした尊を、


「……ありがとう、尊」


わたしは両腕で抱き締めた。
やり方は良くなかったけど、尊は尊なりにわたしを想ってくれていたんだ……。


「雫希……。俺、結婚断ってきた」


「えっ?」


「ちゃんと勉強して、おまえの役に立てる人間になったらまた……チャンスくださいって言ってきた」


こう言って小さく笑う尊の顔は、スッキリしたように晴れ晴れとしていた。


そんな尊に笑顔を返し、わたしたちは別れた。

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