HAZY MOON
電車で一時間。
バスで三十分。
海の見える小高い丘に、母の眠るお墓があった。
途中で買った花束を抱え、丘を上がったわたしの前には先客が居た。
見慣れない黒いスーツ姿だったけど、すぐにわかった。
それが、梶先生だっていうことが。
母のお墓の前にしゃがみ込み、じっと墓石を見つめている。わたしはその背中を、数歩後ろから見ていた。
「……悪いな、雅晴」
ずっと黙っていた梶先生が発した一言は、母でなく父に宛てたものだった。
父に宛てたものでもおかしくはない。
だってここは、小野寺家のお墓だから。
「夕希と雫希を幸せにするって約束、どっちも守れなかった……」
「…………」
祖父の病室でした話には、少し続きがあった。
母が死んだ一年前。
十二年ぶりに祖父母の前に現れた梶先生は、
「夕希を雅晴と同じところに居させてやってください」
こう言って頭を下げたのだという。
梶先生はどんな気持ちでそれを申し出たんだろうか……。
黙ってお墓を見つめていた梶先生が、そっと何かを置き、その場から立ち上がった。
「……雫希」
踵を返した先に居たわたしに、梶先生は驚いたように声をあげた。
梶先生の瞳を見つめ続けるわたしから目を逸らし、わたしの隣を横切ろうとした。
「お祖父ちゃんに聞いたっ。……梶先生が本当はお母さんと一緒に、わたしを引き取ろうとしてくれたって……」
わたしを見下ろす表情は変わらない。
ただ無表情に瞳を見つめる。
違う……。
無表情なわけじゃない。
彼は……強張った顔で、わたしを見下ろしていた。
バスで三十分。
海の見える小高い丘に、母の眠るお墓があった。
途中で買った花束を抱え、丘を上がったわたしの前には先客が居た。
見慣れない黒いスーツ姿だったけど、すぐにわかった。
それが、梶先生だっていうことが。
母のお墓の前にしゃがみ込み、じっと墓石を見つめている。わたしはその背中を、数歩後ろから見ていた。
「……悪いな、雅晴」
ずっと黙っていた梶先生が発した一言は、母でなく父に宛てたものだった。
父に宛てたものでもおかしくはない。
だってここは、小野寺家のお墓だから。
「夕希と雫希を幸せにするって約束、どっちも守れなかった……」
「…………」
祖父の病室でした話には、少し続きがあった。
母が死んだ一年前。
十二年ぶりに祖父母の前に現れた梶先生は、
「夕希を雅晴と同じところに居させてやってください」
こう言って頭を下げたのだという。
梶先生はどんな気持ちでそれを申し出たんだろうか……。
黙ってお墓を見つめていた梶先生が、そっと何かを置き、その場から立ち上がった。
「……雫希」
踵を返した先に居たわたしに、梶先生は驚いたように声をあげた。
梶先生の瞳を見つめ続けるわたしから目を逸らし、わたしの隣を横切ろうとした。
「お祖父ちゃんに聞いたっ。……梶先生が本当はお母さんと一緒に、わたしを引き取ろうとしてくれたって……」
わたしを見下ろす表情は変わらない。
ただ無表情に瞳を見つめる。
違う……。
無表情なわけじゃない。
彼は……強張った顔で、わたしを見下ろしていた。