HAZY MOON
「……それを知ったところで、何も変わらない。おまえを夕希と離してしまった。……夕希も雫希も守れなかった」



苦しそうに顔を歪め、絞り出すように声を出す。


その姿がなんだか震えているように見えて、


「ずっと……お母さんと居てくれたんでしょ? それじゃダメなの?」



思わず、堅く握りられていた梶先生の手にそっと触れていた。


「……ずっと居た。ただそれだけだ。守ることも、幸せにすることも出来なかった」



わたしの手を優しく振り解き、梶先生は丘を下っていく。


小さくなる黒い背中が、胸をギュッと締め付ける。





大嫌いだと言い放ったはずのあの人を、独りにしておけない……。

そんな衝動に駆られた。


「……独りで全部抱え込むつもりなのっ?」


お墓の前に置かれていたくすんだシルバーリング。


手のひらで鈍く光るその内側には、『M・Y』のイニシャルが刻まれていた。








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