HAZY MOON
「出来た奴はプリント持ってこい」


一限目の授業終了間際。
眼鏡を外した梶先生の声で教卓に向かうのは、クラスの半分程度の人数だった。


名前の書き忘れを素早く書き込み、教室を出ようとしていた梶先生に駆け寄る。


「……お願いします」


駆け寄ったわたしに気付いた梶先生が、足を止めて片手を差し出した。


「小野寺」

「……はい」


不意に呼ばれて、わたしは梶先生を上目に見上げた。
訝しみながら返事を返したわたしに、


「放課後、残りのプリント集めて持ってこい」


「えっ……ちょっと」


有無を言わす隙も与えず言い放ち、擦り足でサンダルを鳴らして行った。


教室の入り口に残されたわたしは、その後ろ姿を見ながら思わず大きな溜め息を吐いた。


今日は厄日だろうか……。
まだ一限目しか終わってないというのに、わたしの不快指数は上がる一方だ。




仕方無く残り半分のプリントを集め、放課後の美術室を目指す。

美術は選択科目なので、選択していないわたしには滅多に来るところではない。


校舎の隅の方にポツリと佇む美術室。
派手に汚された机が並ぶ更に奥に、教師用の準備室があった。


その扉を二~三度ノックした後、

「……失礼します」

初めて入るその場所を、窺うように見回した。


「ちゃんと集めて来たか?」


乱雑に物が積み上げられた部屋の中で、梶先生は優雅にもコーヒーの良い香りを漂わせていた。
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