黒の村娘といにしえの赤鬼
次の日になっても父さんは具合が悪そうだった。
というか、昨日よりも確実に悪化している。
私が代わりに畑仕事をすると言っても自分がやると言って聞かないし、外に商売しに行くと言っても絶対にだめだと断られた。
こんなにふらふらで今にも倒れそうなのに黙って見過ごせるわけがない。
私は台車を引く父さんの前に立ちはだかって行く手を阻んだ。
「私が行くわ。父さんには行かせられない」
「だめだよ。これは私の仕事なんだ。それに珠々は小夜ちゃんと約束があるんだろう?」
「そんな事より父さんの体の方が心配よ。いいから貸して!」
私が強引に台車を取ろうとすると、ぱしっと手を払われた。
「だめだ珠々。珠々は絶対に外に出てはいけない」
「え…」
温厚な父さんが厳しい表情で私を見つめる。
あまりにも真剣に言うものだからこれ以上何も口ごたえは出来なかった。
「…じゃあ行ってくる」
「…うん、分かったわ。いってらっしゃい」
顔色は悪く、咳をしながら台車を引く父さんの背中を見つめる。
あんなに強く言うのなら大丈夫だろうと思いながらも、父さんの言葉に引っかかるものがあった。
「絶対に外へ出てはいけない…か」
幼い頃から言われ続けていたけど、今日みたいに強く言われた事はなかったと思う。
それに村の人たちは鬼が生きている事を知っているだろうし、余計外に出したくないと考えているのかも。
うん、きっとそうだ。
そう考える事にしよう。
父さんの体調を心配しつつ、私は小夜が待つ広場へ向かった。