黒の村娘といにしえの赤鬼

父さんが倒れてから一週間が過ぎた。

ろくに食べる事もできずにいたから、みるみるうちに体は痩せ細ってしまった。


「父さん、少しでもいいから食べて」

そう言ってつくったおかゆを口に運んであげる。
しかし一口食べると再び体を横にして布団に入ってしまった。


「…今、薬用意するね」

残ったおかゆに目を落としながら台所へ向かう。
いつものように薬を準備して寝床に戻ると寝ていたはずの父さんは上半身を起こして私を見つめていた。

「どうしたの?おかゆ食べたくなった?」

「…珠々、お願いがあるんだ」
「お願い?」

まさか遺言でも伝えるつもりなのだろうかと背中がぞくりとした。


「村の裏山に行って、鬼仙草(きせんそう)という薬草を取ってきてほしいんだ。それはどんな病も治すと言われているもの。それを煎じて飲めばこの病が治るかもしれない」

「本当なの…?」


半信半疑で父さんに尋ねた。
父さんはゆっくりと首を縦に振る。

「昔、私も実際に採ってきたことがあるんだ。…紙と筆を持ってきておくれ」
「う、うん…」

言われるがままに持ってきて父さんに手渡すと時々思い出しながらするすると鬼仙草の絵を書いた。
覗き込んでみると、見たこともないような不思議な姿をしていた。

「これって…裏山のどこにあるの?」
「…分からない。私はもらったことしかないからな」
「もらったって誰に?」
「それは…すまない、覚えていないんだ」
「そう…」

でも裏山にあるってことは確かなんだ。
見つけて持ち帰れば、父さんの病気は治るかもしれない。
今はこの鬼仙草に望みをかけるしかないんだ。

「本当は一人で行かせたくはないんだ。よいか、もし何かに襲われそうになったらすぐに帰ってくるんだよ。珠々の安全が第一だからね」
「分かったわ。約束する」

そう言って父さんの背中に腕を回した。
細くなってしまって痩せこけた父さんを早く元気にさせたい。
そう思いながら裏山に行く決意をするのだった。
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