黒の村娘といにしえの赤鬼
私が恐怖で何もできないのを悟ったのか、ふっと笑うと、不意に近づいて来て足首に触れた。
「な、何をするのですか?!」
「これじゃあ帰れないだろ。今手当てしてやるって言ってるんだ」
すると男は慣れた手つきで捻挫した足首に薬のようなものを塗ると何かの植物を貼り付けた。
その植物は私が探し求めていたあの鬼仙草にそっくりだった。
「あの!それって…鬼仙草ですか?」
「あ?そうだが…」
その返答に心が沸き立つのを感じた。
「お願いです、鬼仙草を一つ分けてくれませんか?それを探してここへやって来たんです」
「何に使うつもりだ?」
「父の…病を治すためです。もう鬼仙草に頼るしか治る術はないのです…」
そう言うと男はしばらく考え込んでから懐にしまってあった鬼仙草を私に渡してくれた。
「ありがとうございます!」
これが…探し続けていた幻の薬草…。
まさか鬼からもらうことになるなんて思いもしなかったから驚きもあったけど、何にせよ手に入ったのだからとても嬉しい。
これで父さんを治すことができる。
「あの…本当にありがとうございます」
「別に…。さ、もう帰れ。もう二度と足を踏み入れるなよ。竹林の出口まで送ってやる」
「あ、大丈夫です。道を教えてくれるだけで」
貼ってもらった鬼仙草がもう効いたのか、すっかり痛みは感じなくなっていた。
さすが幻の薬草…。
これなら父さんの病もすぐ治るだろうと身をもって感じた。
「そんな馬鹿な…」
何やら男は驚いている。
鬼仙草を使ったからすぐ良くなるものじゃないの?
どうして驚いているんだろう…。
「何か…?」
「いや、何でもない。こっちだ」
男は咳払いをすると竹林の出口まで案内してくれた。
ここからなら迷わず村へ戻れそう。
「本当に助かりました。これで父も喜びます」
「そうか。…鬼仙草の事、誰にも言うな。再三言うようだが俺に会ったことも」
「はい、分かってます。…では」
軽く礼をして村へと戻っていく。
少し歩いたところで後ろを振り向くともう男の姿はなくなっていた。
…もう日も暮れてきた。
私は足早に村に帰るのだった。