黒の村娘といにしえの赤鬼
でも何度か足を運んだけど一度も姿は現さなかった。
もちろんあの竹林にも。
赤い髪の鬼と出会った場所で日が暮れるまでいたこともあったけどそれでも来なかった。
そのうち会えるだろうと考えて毎日足を運ぶこと今日で五回目。
「いってくるね」
「いってらっしゃい!」
すっかり元通り元気になった父さんを見送って、私は裏山へ向かった。
「あ、珠々!どこに行くの?」
「小夜!」
丁度そこへ小夜がやってきた。
「そんなに急いでどこに行くのよ。最近稽古にも来ないし」
「う、うん…ちょっとやりたいことがあるというか…」
さすがに小夜には鬼に会いに行くなんて絶対言えない。
「そうなの?じゃあ私にも付き合わせて」
「あ…それは…」
どうしよう…小夜についてきてこられると困るし、かと言って不自然に断っても不審がられるだろうし…良い言い訳はないだろうか…。
「…ま、いいわ、今度で。珠々だって隠し事の一つや二つあるだろうし。もし男と会っているなんて事があるんだったら承知しないけどね」
「そ、そんな事あるわけないじゃない!」
まあ男には変わりないけど、そんな仲じゃないし…。
少し焦ったけど小夜が意外とすんなり引いてくれて良かった。
「たまにはこっちに顔見せてよね。珠々なんて美人だからすぐに鬼に捕まってしまいそうだし」
「大丈夫よ私は。畑仕事で体力あるし!」
私が力こぶをつくってみせるとふっと吹き出して小夜は笑った。
「それじゃ、私は稽古に行ってくるね」
「うん、またね」
「またね」
いつもの明るい笑顔を見せて私に手を振りながら小夜は去って行った。
小夜に本当の事を言えないのが心苦しい。
もし、今日、あの鬼に会えたのなら本当の鬼の事を聞き出してみよう。
私たちを襲わないと約束してくれたら、小夜に…村の皆にも知らせてあげよう。
争いのない暮らしが一番幸せなんだから。