唇に、ちよこれいと
これが意味することを理解できないほどあほじゃない。
それもこれも、全部この男のせいだ。
「ったく……、だいたい資料作り忘れてたなんざ、どういう了見だよ」
はぁ、と失望を示すように吐き出された声に、言いようのない苛立ちが迫ってきていた。
何を言っても無駄だと理解している。
どうせ私が作っていた資料を消したのは、今この男が何の躊躇いもなく捨てているチョコレートを作った誰かだろう。
その中の誰なのかを探るなんて不可能だ。
「……すみません。必ず今日中に終わらせます」
「今日中って、あと8分だぞ」
私の声にかけられた言葉は注意すると言うよりは、面白がっているような言い草だった。
その言い方があまりにも余裕で、そんなことにも腹が立つ。
思えば、私は最初からこの男が嫌いだった。
「蓮見 耀(はすみ よう)だ」
研修を終えてチームに加わった私に誰よりも早く声をかけたのがこの男だった。
蓮見 耀。
営業成績は常にトップのこの男が、まさか自分の直属の上司になるとは、夢にも思わなかった。
それがいまでは悪夢だ。
形の良い唇がいかにも楽しげに弧を描いている。私はその唇を視界の端に感じながら、最後の作業に取り掛かっていた。
それもこれも、全部この男のせいだ。
「ったく……、だいたい資料作り忘れてたなんざ、どういう了見だよ」
はぁ、と失望を示すように吐き出された声に、言いようのない苛立ちが迫ってきていた。
何を言っても無駄だと理解している。
どうせ私が作っていた資料を消したのは、今この男が何の躊躇いもなく捨てているチョコレートを作った誰かだろう。
その中の誰なのかを探るなんて不可能だ。
「……すみません。必ず今日中に終わらせます」
「今日中って、あと8分だぞ」
私の声にかけられた言葉は注意すると言うよりは、面白がっているような言い草だった。
その言い方があまりにも余裕で、そんなことにも腹が立つ。
思えば、私は最初からこの男が嫌いだった。
「蓮見 耀(はすみ よう)だ」
研修を終えてチームに加わった私に誰よりも早く声をかけたのがこの男だった。
蓮見 耀。
営業成績は常にトップのこの男が、まさか自分の直属の上司になるとは、夢にも思わなかった。
それがいまでは悪夢だ。
形の良い唇がいかにも楽しげに弧を描いている。私はその唇を視界の端に感じながら、最後の作業に取り掛かっていた。