午前0時のシンデレラ
「もう行きますね…今日は、ありがとうございました」
彼女がカウンターを立ち上がる。
行きかけるその腕を、
「まだ、行くなよ…」
と、引いた。
「でも……」
目の前で、長い黒髪が翻って、初めて会った時のことを思い出す。
あの時嗅いだ髪の残り香が鼻腔をくすぐって、なんとも言えない切なさがまた胸を込み上げる。
とりあえずチェックを済ませて、彼女と一緒に外へ出た。
手をつかんだままでいるのに、
「…あの、社長…手を……」
と、彼女が小さく言う。