キミが教えてくれたこと◆番外編◆
「今日のこの時間は再来週に控えた体育祭の参加種目を決めるぞー」
ゴールデンウィークも明け、一年で最初のイベントがやってきた
昔から運動が好きなタイプだったのでこのイベントは楓太にとって楽しみの一つだった
「委員会で協議した結果、今年は立候補形式では無く、全校生徒あみだくじで参加する競技を決めることになりましたー!なのでみなさん恨みっこなしですよー!」
体育委員の百合がそういうと男子は、はーい!と気持ちのいい返事をしていた
「今年の競技種目はこんな感じでーす!」
張り出された紙を見るとよくわからない競技種目もあり、出来れば普通の種目に当たりますようにと心の中で願った
「俺、去年騎馬戦だったんだよなー。出来れば個人種目がいいわ」
陸が楓太の隣に立ちそう言った
「あー、団体競技って大変だもんなー」
二人であみだくじを選ぶ
「はい、ではみなさんの競技種目を発表しまーす!」
各々、自分の競技種目を調べる
「うわー!俺、騎馬戦じゃん!」
またかよー、と項垂れる陸に「どんまい!」と肩を叩く
「えーっと俺は…」
辿っていくと見慣れない競技種目だった
「ちょ…俺のこの女装リレーってなに…?」
楓太の当たった競技種目に陸は大爆笑
「おまっ…高校最後の体育祭でっ…ぶっ、女装て!!!」
周りのクラスメイトも笑っている
「女装リレーとはその名の通り、女装してリレーをしてもらいます!」
百合が得意げに説明をしているが楓太は絶望に満ちた顔でそれを受けるしかなかった
『駄目だ…私本当にみんなの足を引っ張ってしまう…』
その声に振り返ると彼女が肩を落としているのが見えた
「またまたー、そんな事言ってー!茉莉花ちゃんなんでも器用にこなすじゃない!」
『いや…ほんとに…』
最近の彼女は川瀬さんと仲が良い
それに前より少し雰囲気が柔らかくなり話しかけやすくなったように思う
かと言って特に共通の話題もないので自分から話しかけることはないまま、見ているだけだった
「女装リレーねー。楓太にピッタリじゃない」
種目別に練習するため運動場に行くと美月と山内さんが話しかけてきた
「何がピッタリなんだよ」
「麻生君可愛い系だし、きっと女装似合うよ。私が化粧してあげるね」
「そりゃどうも」
楽しみだった体育祭が一気に楽しみではなくなった
「…林さん…走ってる…よな?」
「誰だ?林さんの靴に重り入れたやつ」
クラスメイトの声にトラックを走っている彼女を見ると顔を真っ赤にさせながら一生懸命走ってる姿が見えた
「あらー、林さん運動苦手なんだね」
「林さんでも苦手なことってあるんだ」
美月と山内さんさんが話しているのを聞いて「確かに…」と声を漏らす
だけど、なんだか、一生懸命走っている彼女の姿が新鮮で
ーー可愛い…
「…っ!」
自分の思考に驚いて楓太は勢いよく後ろを向きそのまま水道場を目掛けて走る
「楓太!?」
美月が呼んでいたが答えずそのまま蛇口を捻り顔に水を入れ浴びる
ーーなんだなんだ!?
一気に顔に熱が集中し、それを冷ますように水を浴び続ける
それと同時に心臓が大きく波打っているのがわかる
キュッ…と水を止め、大きく息を吐く
「うわ…マジか…」
右手でおでこを抑えるとそこも熱く感じる
この気持ちの正体がなんとなくわかる
これは、恋をしている。そう確信した午後だった