キミが教えてくれたこと◆番外編◆
「なんで…俺が…こんな…」
自分のくじ運を呪いたい、そんな最悪な気分
「くっ…くくっ…いやー、思ったより、に、似合ってっ…」
「笑うなら笑え」
楓太のその一言で陸はとうとう声を出して笑った
「超可愛いよ!似合ってる似合ってる!」
顔にはベタベタに塗られた化粧品の匂いとジャラジャラした装飾品
クラスの女子に囲まれてされるがまま椅子に座っている
「なんとでも言え…」
ーー泣きそう…こんな姿、林さんに見られたら…
「麻生くん?」
聞き覚えのある心地いい声が耳に届く
振り向くと茉莉花が首を傾げて近づいていた
「いえ、あの、人違いです。」
「何言ってんのよ」
顔を手で隠してせめて見られない様にガードしても周りがそうだよ、と勝手に答えていく
『すごく似合ってるよ』
「…複雑な気分です。」
好きな人に女装の姿を見られた挙句、似合ってると言われても素直に喜べず下を向く
パニエのふわふわの生地がなんとも憎たらしい
その時、前髪に誰かの手が触れる
「…!」
『こうすると女の子みたい。麻生くん可愛い顔してるから、つい似合ってるって言っちゃった。ごめんね?』
いつもよりだいぶ至近距離にある彼女の顔に驚き、勢いよく後ろに体をひいてしまった
「あ、え、いや、えと、そろそろ並ばないとっ…!」
少し、いやかなり不自然だったと思うが出来うる限り平常心を装い種目別に集まる輪に入り込む
自分達の番になり、スタート地点に立つ
チラリとクラスの方を見ると、規制線のすぐそばに彼女がいるのが見えた
視線をもう一度足元に移し、先程撫でられた前髪に触れる
一呼吸整え、足を後ろに引きパンっという合図でトラックを走り抜けた
ーーああ、やっぱり好きだな
自然と軽くなる体、心地いい風、生徒達の歓声を聞きながら楓太はゴールテープを切った
「林さん!」
『麻生くん』
それからは以前より少し距離が縮まったと思う
会えばたわいもない話しをし、たまにクラスメイト数名で勉強を教え合ったりそれなりに毎日を楽しく過ごしていた
季節はあっという間に夏になり、みんな夏休みで浮かれている
クラスメイトがみんなでプールに行こうと話し大盛り上がりだ
「おいー!譲二、林さんばっかじゃなくて俺たちとも遊べよな!」
「プールいいなー!私も行きたい!」
「私も!」
「じゃあみんなで楽しい思い出作ろう!」
楓太ももちろん茉莉花も笑い、楽しくなりそうな夏休みに胸を躍らせていた
だが、約束した夏休み、彼女は一度も姿を見せなかった