キミが教えてくれたこと◆番外編◆
夏休み明け、日誌を取りに職員室に向かっているとちょうど職員室から出てくる茉莉花と出会った
「林さん!おはよう!」
『麻生くん、おはよう』
1ヶ月ぶりに見た彼女は少し痩せているように見えた
「元気にしてた?プール…来てなかったみたいだから…」
すると彼女は申し訳なさそうに顔に影を落とす
『ごめんなさい…。約束したのに…』
「あ、いや、いいんだ!元気なら…それで…」
必死に取り繕う楓太に茉莉花は眉を下げて微笑む
「職員室へは何か…呼び出し?」
話題を逸らそうと尋ねる
『進路を…変えようかと思って』
「進路?林さん就職希望だっけ?進学するの?」
驚きで次々と質問攻めになってしまっていることに気付き、一旦息を飲む
『ある人に…たくさん、大切な事を教わったから…。私も誰かにそれを伝えていきたいなって思って』
微笑む彼女はとても綺麗だった
「どういう道に進むの?」
すると少し顔を赤らめながら彼女は綺麗な髪を右耳にかけた
『教師に…なりたくて』
ーー林さんが、先生
「すごいよ、きっと林さんならなれるよ!すごく似合ってる!」
その言葉に彼女はまた照れくさそうに笑った
彼女の中でどういう変化が生まれたかはわからない
だけど、まっすぐ前を見据えるその姿はきっと揺るぎない何かを胸に秘めているのだと感じた
「楓太ー!写真撮ろー!」
美月の呼び声に振り向く
みんな胸にお揃いの薔薇のコサージュを付けている
今日は卒業式だった
卒業証書用の丸筒を持ってみんなが別れを惜しんでいる
「はいっ、チーズ!…ってもっと笑いなさいよー!」
撮り終えてすぐにスマートフォンを確認した美月は笑顔のない楓太の表情に不満を漏らしつつ、楓太の頬を引っ張る
「やーめーろ!お前との写真はガキの時からずっとあるんだからもういいだろ!」
「小さい時と今とじゃ全く違うでしょ!」
「こんな時でもまた夫婦喧嘩ですか〜?」
「夫婦じゃねえ!」
「夫婦じゃない!」
陸の言葉にいつも通り二人で勢いよく否定する
「あ、やべ、俺机に忘れ物した」
「もー、あんたはこんな時も鈍臭いんだから」
「まだ教室空いてんじゃね?」
「ちょっと取りに行ってくる!」
美月に荷物を渡し教室まで走った
ーーそういえば林さん見なかったな…