キミが教えてくれたこと◆番外編◆


教室のドアに手をかけると鍵が閉まっておらず、安堵の息をもらしドアを開ける


「あ…」

『!麻生くん』

ドアを開けるとそこには教室の窓から外を眺めている茉莉花がいた


「どうしたの?みんなと集まらないの?」

自然と彼女の近くに歩み寄る


『ちょっと…黄昏てた』

恥ずかしそうに笑う彼女に胸が高鳴る

こんな風に彼女と会話をするのはきっともうこれで最後だろう


「合格…おめでとう。先生になる第一歩だね」


あの日、夢を聞かされた日から彼女は必死に遅れを取り戻し無事大学に合格した


『ありがとう。まだまだこれからだけどね』

こんな風に自然に彼女と話せるなんて、3年前は思わなかった

少しは君に近付けたのかな


「あの…さ、林さん」

窓の外を見ていた彼女の瞳がこちらを向く


「その、俺…」

きっと今言わないと後悔する。何をしてる、早く自分の気持ちを伝えるんだ。そうもう一人の自分が訴えかける



「…林さんが前に言ってた大切な事を教えてくれた人って、林さんにとって大事な人なの?」

彼女の瞳が微かに揺れるのを感じた

そして悲しく微笑みながら頷く

『とても、大事な人。私に人を愛することを教えてくれた』


ーーああ、やっぱり

心のどこかでずっと思ってた。だって、この3年間ずっと君を見ていたから


『人の温かさを、自分の強さを、信じる気持ちを…たくさん教えてくれた。すごく支えられた』


彼女から一筋の涙が溢れる


『その人から貰ったものを次は私が誰かに伝えたい。それが私が彼に出来ることだと思ってる』

まるで自分に言い聞かせるように彼女を前を向いてそう言う

その凛とした横顔は初めて彼女を見た時の姿と同じだ


『!麻生くん…?』

彼女の目から溢れる涙を親指の腹で拭った

今はこんなに近くで君に触れることが出来る、だけど



「…とても、好きだったんだね」

その言葉は彼女に言ったのか、自分に言ったのだろうか


「大丈夫。林さんならきっと、どんな事も乗り越えていける。たくさんの人を幸せにできる。そう信じてるよ」


泣きながら笑う彼女の顔を忘れないように目に焼き付けた







「ふーたー!あんたまーだ教室に居たの!?これから打ち上げだよ!」

茉莉花のいなくなった教室で楓太は机に座りながら窓の外を眺めていた


「ちょっと!ボケッとしてないでさっさと行くわよ!」

「なぁ美月」

美月は窓の外を見続ける楓太の腕を引っ張るが名前を呼ばれ振り向いた


「俺って意気地なしだよなー…」

「はぁ?何を今さら、分かり切ったことを言って…っ!」

美月は楓太の顔を覗き込むと言葉を詰まらせた


「すごく、好きだったのにっ…。「好きだ」って…たった一言が伝えられなかった…っ」

悔しそうに涙を流す楓太に何も言えなかった


わかってた。どんなに好きでも叶わない事もあるということを。



「…ほーら!今日は特別!美月さんの肩を貸してやろう!」

美月は楓太の隣に座り肩を組んだ


「それだけさ、人を好きになれるってすごい事じゃん。両想いだけが全てじゃないよ。私があんたの良いところいっぱい知ってるから」

ポンポンと規則正しいリズムで肩をたたかれる

その心地良いリズムに馬鹿みたいに涙を流し、そっと目を閉じた


瞼の裏に最後に見た彼女の笑顔が浮かんだ





ああ、きっと君は知らないんだ。

こんなに俺が君を好きだったこと。


だけど、それでもいい。


この想いは、この痛みは、ずっと色褪せず心に留まり続けるんだ。


だけど、これだけは覚えていて。


君は俺に人を愛することを教えてくれた、たった一人の初恋の人なんだ。

















END
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