キミが教えてくれたこと◆番外編◆
◇茜色の願い〜川瀬百合〜


「茉莉花ちゃん!一緒に帰ろう!」

HRが終わり百合は茉莉花に声をかけると茉莉花はうん、と頷いた


「もう秋だねー」

帰り道の地面には落ち葉がカサカサと舞っている


『一年ってあっという間だね』


高い空を見つめる茉莉花の横顔を見て百合は少し切なくなった


あの夏休みの一件以来、茉莉花は少しずつ元気になったように見えたが時折寂しそうにしているのが百合にとってずっと気がかりだった



「勉強の方はどう?」

就職希望だった茉莉花が進学に決めたと教えてくれたのは夏休みが明けてすぐだった


あれから放課後はアルバイトを減らして先生に受験勉強を手伝ってもらっているらしい


『んー、先生は問題ないって言ってくれてるけど、少し不安かな。みんなよりスタートが遅かったし』


茉莉花は眉を寄せて困ったように笑った


「そっか…」


専門学校へ行く自分には大きな試験などはなく、必死に勉強する茉莉花に対して励ます言葉も見つからなかった



「!」

ふんわりと香ばしい香りが鼻をかすめ、その元を辿っていくと先の方に大きくたいやき焼きという幟が見える



「茉莉花ちゃん!たいやき!たいやき食べよう!」


『え!?ちょっと百合!?』


茉莉花の手を引いて店まで走る


「いつも頑張ってる茉莉花ちゃんに御褒美です!」

百合は一つ茉莉花に渡した


『ありがとう』

それを微笑んで受け取る

二人は近くのベンチに腰掛けた


「じゃあ、カンパーイ!」

『たいやきで乾杯っておかしくない?』

「いいのいいの!」


たいやきを二つ合わせて乾杯!と言って食べ始める


「んー!美味しい!」

『久しぶりに食べた。美味しいね』

少し肌寒くなった季節に温かい物を食べると心がほころぶようだった



「…茉莉花ちゃんは…さ」


少し遠慮がちに茉莉花に話しかける



「"会いたい人"に、もう会えないの?」


茉莉花はその質問に目を伏せてうん、と頷いた


「…その人、どんな人だったの?」


すると茉莉花は目を瞑り微笑みながら思い出しているようだった



『すごく…強い人』

「強い?」


するとクスッと茉莉花が笑う


『力が強いとかじゃなくてね?なんていうんだろ…自分の事よりも相手の事を考えていて。絶対に自分の弱いところを見せない…心がすごく強い人だった』


でも、と続ける


『私は…弱味を見せてほしかった。もっと頼って欲しかった。きっと、ずっと不安だったと思うの。だから…私も支えたかった』


茉莉花は悲痛に耐えている表情だった


「きっと…茉莉花ちゃんはその人にすごく大切にされてたんだね」

茉莉花は顔を上げて百合を見る


「その人は弱さを見せなかったんじゃなくて、茉莉花ちゃんがいたから強くなれたんじゃないかな?」

その言葉はいつか自分がハルトに対して思っていたことだった


「茉莉花ちゃんの知らない所で、その人は茉莉花ちゃんに支えられてたんだよ」


『…そうだと、いいな』


いつの間にか辺り一面オレンジ色になっていた



「もし、今その人に会えたらどうする?」


百合の質問にんー、と顎に手を当てて考える






『とりあえず一発殴る!』


「え!?」


珍しく茉莉花からの力強い言葉に百合は驚きを隠せずにいた


「な、殴っちゃうの?」

『うん。だって私に寂しい思いをさせたんだもん。それくらいしなくちゃ気持ちがおさまらない』


百合は呆気にとられた後、大声で笑った


「茉莉花ちゃん最高だよー!」

『え?なんで?笑う所あった?』


百合の笑顔に茉莉花もつられて笑った




ーーきっと、茉莉花ちゃんにこんな事を言わせる人は世界でその人だけなんだろうな


ーーいつか、どこかで


ーー茉莉花ちゃんがその人とまた出会えたらいいな…






百合の小さな願いはオレンジ色から微かに光る星々に溶けていった







END
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