キミが教えてくれたこと◆番外編◆


高校3年になり、少しクラスが馴染み出した頃だった

今まで話したことなかった子とも仲良くなれて毎日が楽しくなっていた


「………」


だけど、いつも窓際で一人本を読んでいる女の子が気になっていた


彼女の名前は林茉莉花というらしい


彼女はグループに属さずいつも一人で時間を過ごしている



「っでー、またいつものお店行ったんだけど…って楓太聞いてる!?」


「え、ああ、ごめん。なに?」


「あんたねー、いつもボーッとアホ面して…」


「アホ面ってなんだよ!ちょっと考え事してたんだよ!」


「へー、楓太でも考える事があるんだねー」


「なんだとー!?」


言い合いをしているのは道下美月(みちした みづき)。小さい頃から家族ぐるみの幼馴染で今年は同じクラスになった


「で、私の話を聞かず何の考え事をしてたわけ?」


美月はじとっと楓太を睨んだ



「いや…、あの子さ、いつも一人でいるけど仲良い子いないのかな?」


どれ?と美月が楓太の肩越しに茉莉花を覗く



「ああ、林さんね。どうなんだろ?前も同じクラスだったけど特別仲良い子ってのはいなかった気がする」


ふーん、と美月の答えに楓太も彼女を見る


「なに?気になるの?」

「え?いや、気になるっていうか一人で寂しくないのかなって…」


美月は楓太の答えに笑った


「あんたみたいに万年うさぎさんじゃないのよ!一人でいるのが好きな人もいるの!」


そんなもんか、と楓太は納得したように会話に戻った



「はーい、席につけー。授業始まるぞー」


そこに担当教科の先生が入ってくる


「今日はこの間出した課題の答え合わせするぞー」


先生のその言葉に楓太はげっ、と顔を歪ませる

急いでノートを開いてみたがそこに答えは全く載っていなかった


「や、やべぇ…」


当たりませんように!と心で願って課題を進め始める


「そうだなー、まず1問目は出席番号1番の人にしよう」

楓太はぶわっと背中に汗が伝った感じがした

出席番号1番…


「麻生。前に出て来て」

やっぱり…とゆっくり椅子を引き黒板に向かう


「問2はー、今日の日付が27日だから…出席番号27番の林!」


楓太は呼ばれた彼女を見ると彼女は「はい」と短く返事をし、黒板に向かう


カツカツカツ…と彼女がチョークで黒板に答えを書く音が聞こえる


「麻生!早くしろ!」

その声にビクッとして思わずノートを落としてしまった


「ぅあ…」

変な声が出てしまってノートを拾おうとすると誰かの手が見えた

それは林さんの手でビックリして彼女の顔を見る


ーーあ、近くで見ると綺麗だな…


そんな事を思っていると彼女は落とした白紙のノートを凝視しているのが分かった



「あ、えっと…」


空気が重く、急いでノートを拾おうとすると彼女は何故か自分のノートを手渡して席に戻った


何故彼女がそんな事をしたのか…最初はわからなかったが先生の早くしろ、という催促の声にそのまま彼女のノートを持って答えを黒板に書き写した


ーーきっと彼女は助けてくれたんだ…


チョークを持つ手が少し震えていつもより字が汚くなった

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