キミが教えてくれたこと◆番外編◆
「は、林さん、ありがとう」
緊張のあまりどもってしまった
自分は今彼女に普段の自分として映っているのだろうか
『いいえ』
ふんわりと笑う彼女に胸がどきりとした
初めて彼女の笑顔を見た、そして初めて自分に向けられている声を聞いた
「き、綺麗な字だね」
もっとその声が聞きたくて思いついた言葉をすぐに伝える
『ありがとう。勝手にノート持ってっちゃったし、後で迷惑なことしちゃったなって思ってた』
「そんなことないよ!すごく助かった!」
「楓太ー!次体育だぞー!」
友達に呼ばれて振り返る
「あ、うん。じゃあ…あの、ほんとにありがとう」
そのまま教室の扉で待っている友達の所まで荷物を持って走った
「お前ー、林さんと何喋ってたんだよー」
「べ、別になんでもねぇよ!」
肩を組んでニヤニヤしてくる友達に素っ気なく返し、教室を出て更衣室に向かおうと足を進めた時にもう一度ちらりと彼女を見る
彼女は何も無かったかのように身支度をしているのが見えた
「あー、彼女ほしーーっ」
今日の体育の授業はバスケだった
楓太と友達の陸は得点係でクラスメイトの試合を眺めている
「へぇー」
「"へぇー"じゃねぇよ!俺ら華の高校生だぞ!?青春真っ盛りだぞ!?恋愛という名のスパイスが日常に必要ではないか!」
熱弁する陸を尻目に「そんなもんかねー」と興味なさそうに得点板の上で肘をつき顎に手を添える
「ま、お前には道下がいるもんなー」
「だーかーらー、アイツとはそんなんじゃねぇって」
幼馴染でよく話すからと言って小さい頃からさんざんみんなに言われて来た言葉に、楓太は強く否定せずため息をつきながら答える
「じゃあ楓太のタイプってどんな子だよ?」
「山内さんみたいなギャル系?それとも川瀬さんみたいなふんわり美人?」と鼻の下を伸ばしながら真後ろでバレーの授業を受けている女子を見て陸が言った
「俺は…」
その時コートの隅で体育座りをしている茉莉花を見た
「…物静かで、芯がしっかりしてて優しい人」
「ふーん」
目線を感じ隣を見ると陸が自分の顔を見ているのに気付いた
その視線にハッと我に返りバスケの試合に目を向けちょうど得点が入ったことを知らせる笛の音で点数を加算する
「ま、美月とは正反対の人ってこと」
「あー、道下は物静かってタイプじゃないもんな」
「誰の事を言ってるのかしら?」
その声にビックリして振り返るとバレーボールを持った美月が仁王立ちしていた
「あんたねー、私だって選ぶ権利あるんだから!私だってあんたみたいなヘニャヘニャ男、タイプじゃないから!」
「ヘニャヘニャってなんだよ!」
「ヘニャヘニャはヘニャヘニャでしょー!昔は私の後ろばっかりくっついてたくせに!」
「いつの話だよ!ガキの時の話を蒸し返すんじゃねー!」
「あーあー、出た出た。夫婦喧嘩ですかっての」
半ば呆れ顔の陸に勢いよく二人で振り向く
「夫婦喧嘩じゃねぇ!!」
「夫婦喧嘩じゃない!!」
また顔を見合わせてフンッと勢いよく離れ美月は授業に戻って行った
「楓太君も罪な男ですねー」
「?」
なんでもねぇよ、と陸ははぐらかし楓太もそれ以上追求しなかった