そのプロポーズお断りします!
チヒロさんは今日はお店を休むと言って、店のママに
「妹(きっと私の事だ。)が突然やって来た。」と電話をかけ、シャワーを浴びにいってしまった。


ダイニングテーブルにひとりで残された私はテレビをボンヤリみながら、タイガとの事を思い出していた。

蒼井 大河(あおい たいが)は私の近所に住んでいた。

5歳年上で、私の母が受付と医療事務をしていた『あおい小児科』の長男で

出会った時は私が小学5年生で、タイガは高校1年。

タイガは勉強は嫌いで、いかつい金髪とピアスが目立つ俗にいう不良だったと思う。
多分喧嘩も強かったし、近所の公園や、コンビニの前でにたむろしているしているところによく出くわした。

でもそんな様子はその時の私には分からなかったし…

タイガは私が医院に母を迎えに行くと柔らかい笑顔を見せ、
待っている間、医院の後ろの自宅で一緒にオヤツを食べたり、私の宿題を一緒にしてくれたりした。

まあ、私が中学に入った時は高校3年生で地元ではかなり恐ろしい存在だったのがわかったので、
会っても、目を合わせるだけで、会話を交わしたりはしなかった。

1度、ストーカーみたいに男の子につけまわされた時、助けてくれた事があったけど、
タイガはすぐに立ち去ってしまったし、
(あの時も、俺のオンナに手を出すなって言っていたかな。…都合の良い嘘だと思ったけれど)
不良の知り合いもたまには役に立つって思っただけだった。



でも、
私が高校3年の冬に父が急に亡くなった時に、お葬式が終わってしばらく経ってから、
母が留守の時にタイガがお花を持って私の家にお線香をあげに来てくれた。
(たぶん、告別式に金髪で出たくなかった。と言っていたかな…)

お父さんの位牌の前でタイガが金色の頭を下げていた時、
それまでずっと母の前で泣かないようにしていた涙が出た。

どうしてかな

タイガの柔らかい表情が昔とちっとも変わらなくて、
優しい笑顔だったから、安心してしまったのかもしれない。







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