そのプロポーズお断りします!
泣き止めない私をあやすように手を握り、そっと頭を撫でていたタイガが、
そうっと、ひたいや瞼に唇をつけた時、
そばにいてほしいと、
彼の胸にすがりつき、泣きじゃくっていると、
タイガは我慢できなくなったようで、荒々しく唇を重ねてきた。
私も彼の唇を自分からも求めた。

もちろんファーストキスだったけれど…

その時、
ひとりっ子で何不自由なく両親に守られて育って来た自分を
母を守る事ができる存在に変えたくて、
すぐに大人になると決めたところだった。


今すぐ大人になりたい。


私はタイガに「私をオトナにしてください。」とそう言って、
そのまま身を任せたのだ。


タイガは「ここじゃ抱けない。」と照れたように位牌を見たので、
私はタイガの手をぎこちなく引き、私の部屋の狭いベッドで抱き合うことにした。

「本当にいいのか?」とくちづけを何度もしてから、タイガは掠れた声で囁いたので、私は目を開いて、まっすぐ見つめて頷いた。

タイガは慣れていたんだろうけど、私は初めてだったので、
かなり痛くて、小さな悲鳴をこぼしながら、しっかりタイガの背中を抱きしめていた。

タイガは優しくキスを何度もしながら、それでも激しく私を求めてきたと思う。

タイガが帰った後鏡を見ると鎖骨の周囲と胸に赤い鬱血ががいくつも散っていた。

…キスマーク

オトナになった証(あかし)かな




それをキッカケに私は変わって行けたのかもしれない。

父を失ったばかりの母があまり働かなくていいよう、父の遺してくれた大きな家を人に貸して収入を得ることにし、
母と小さなマンションに移り住み、
音楽の教師になりたいと入学が決まっていた大学は奨学金を借り、
アルバイトで生活費を稼ぐことにし、なるべく早く奨学金を返すために
母に内緒で、ガールズバーでも働いた。
(もちろんまだ、返済中だ。)


私はその後、タイガにふたりきりで会う機会はなかったと思う。

料理人になっていたタイガはイタリアへ行ってしまったし…
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