そのプロポーズお断りします!
乗り慣れていない助手席で前を見たまま

「仕事抜け出してよかったんですか?」と問うと、

「いいんだよ。仕込みは終わってるから、スーでも問題ない。」

「すー…さん?」

「スー・シェフ。俺の弟子でシェフの次の役割。ま、シェフは2人で後はバイトなんだけどさ…」

「そう」

「オーナーには話を通してるし、休憩時間に何をしてもいいだろ。」

「…あ、あの、お料理美味しかったです」

「おお。たくさん食べて肉をつけろよ」

「…」

「もうちょっと美味そうになってからいただくから」

「いただかれなくてもいいです!」

「そんなに拒否るなよ」

「…」

「悠理、怒るなよ。…相変わらず冗談が通じないな」

私がムクれて喋らなくなってもタイガさんは楽しそうに頬を緩めたまま運転をしている。

15分はあっという間でもう、シェアハウスに着いてしまった。

車はゆっくりと道の端にハザードを出して停まる。

私がシートベルトを外そうと俯くと、運転席から乗り出して私の頬を包んで顔をあげさせ、

チュと音を立てて、私の唇に唇をつけた。

「…やめてください」と私が顔を背けると、

「おやすみのキスくらいはさせとけよ、減るもんじゃなし」

「…」

私はタイガさんの切れ長の瞳を睨みつけてから、ギクシャクと車を降りる。

「また明日」

とタイガさんは柔らかい声を出して走り去った。

やれやれ


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