俺たちは研究所に戻らない
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その日の朝は、珍しく涼しい風が吹いていた。
四季を失った世界とは思えないほどだ。
実験室から逃げ出した少女は、
生まれて初めて地上都市に上がった。
『地上に出たら、まずは日陰を探しなさい。』
少女が事前に聞いていた言葉。
地上は毎日、ひどい猛暑が続いている。
教えられた通り、太陽の光を浴びるほど
感覚が鈍っていく気がした。
あぁ、これがあの人の
言っていたことなのかと実感する。
けれど、ひとつだけ違和感を覚えた。
(誰が、教えてくれたの…?)
バケモノと呼ばれた自分にも、
ただひとり心を許す研究者がいた記憶。
いや。
そもそも、そんな人間がいただろうか?
(おかしい。思い出せない…。)
きっと、疲れているせいだ。
今はそう自分に言い聞かせるしかなかった。
あれから随分と時間が経過している。
どこまで足取りを掴まれているだろうか。
ひとまず、太陽が昇りきる前に
日陰を探さなければ。
少女はまた、ゆっくりと歩き出した。
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