七月八日のながれぼし
だから彼の記憶がなくなったと聞いた時、あまりにも現実味がなくて、あたしはなかなか事態を理解することができなかった。
なにも覚えていなかったと聞いたのに、それでもまだ、頭のどこかで大丈夫じゃないか、なんて思っていた。
だけどミツルは、1年後に再会した彼は、もうあたしの知る恋しい人ではなかった。
ふたりの約束は流れ星になってしまった。
『みんなあたしのこと、ナツって呼ぶから、そう呼んで』
『わかった』
『……ミツ、明日の七夕祭り、一緒に行こうね』
お互いの呼び方をなかったことにして、消してしまった。
ただでさえなくなってしまった思い出を、自分の我儘で還らないものにしてしまったんだ。
それはまるで、ミツルを、殺したかのようだった。
それでも、彼はミツルではないと思ったし、あたしをナツキと呼んでいいのはミツルだけだと思った。
……思ってしまった。
あの日の感情は記憶に新しい。
薄れることなくあたしの中にあり、今も空に浮かんであたしを見下ろしている。
激しい想いをなだめるように、星はとても静かだ。
いくつもの小さな粒が集まるようにして、天の川は作られる。
星の流れをなぞるように、指先で空を辿った。