喫茶リリィで癒しの時間を。
 
 さゆりさんのお母さんは、この石川さんまでもを虜にしていたというのか。いったいどんな人だったのかすごく気になるな。

 もう叶わないことだけど、一度会ってみたかった。


「……ついつい長話しちゃったね。あたしもそろそろ帰るよ。実可子が待ってるしね」


「気をつけてお帰り下さい。またいつでもお待ちしております」


 営業スマイルで挨拶すると、八百屋のおばさんはがははと豪快に笑った。


「ありがとう、また娘と一緒に来るよ。その時は新鮮な野菜をお土産に持ってくるわ」


「楽しみにしています」


 八百屋のおばさんが店を後にすると、ジジィトリオも「そろそろ店に戻る」と言って帰っていった。

 店には俺一人になってしまった。いつもさゆりさんかお客さんがいるから、一人になるのはかなりレアケースだ。


 嵐が過ぎ去った後のような静けさだ。急に身体が重く感じる。今日はいろんなことがあって、精神的に疲れたのかもしれない。いいようのない寂しさも感じる。


「さゆりさんが帰ってくるまで休んどこうかな……」


 




 
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