喫茶リリィで癒しの時間を。
 
 なぜか喧嘩腰な俺たち。
 いちいち挑発的なことを言われてムカつくけど、ちょっとだけ楽しい気もする。これがライバルってやつなのか。

 よし、ここはあっと驚かせたいから、少しだけ話を盛ってやろう。


「あれは、一年前の夏のことでした――」


 すっかり見慣れた天井を見上げながら回想に入ろうとしたとき、タイミング悪くドアのベルが鳴った。

 もしかして、さゆりさんが帰ってきたのか?

 だとすれば、もう竹内さんとは話せないな。……とすこし残念に思いながら入り口に目をやると、そこには初めてみる顔があった。


「いらっしゃいませ。おひとり様でしょうか?」

「はい」

「それでは、こちらのカウンター席にどうぞ」


 店にやってきたのは、鈴木のおっさんたちと同じ年齢くらいの男性だった。身長は俺と同じくらいで、すらっとした体型。

 ジャケットを羽織っていてこぎれいな感じ。とくに優しげな目が印象的な人だと思った。


 
< 113 / 176 >

この作品をシェア

pagetop