喫茶リリィで癒しの時間を。
「お客さん、大丈夫ですか?」
すぐにふきんを数枚もってカウンターから出る。幸いカップは割れていなかったけど、コーヒーはこぼれて床にまで滴っていた。
あげくにお客さんのズボンも少し汚れている。
「ズボンが汚れて……」
カップをソーサーに戻し、テーブルに一枚ふきんを置いた。これ以上床にこぼれないようにするためだ。
別のふきんをお客さんに手渡そうとしたけれど、彼の顔を覗き込んだ瞬間、驚いて身体が固まってしまう。
「百合子が、そんな……」
驚いた理由、それは、彼の大きく見開かれた目から涙がこぼれ落ちていたからだ。
人が亡くなることは悲しいことだけど、まさか泣いてしまうだなんて思いもしなかった。しかも、大の大人が人前でだ。
ひょっとして、この人にとって百合子さんは、とても大切な存在だったんじゃ……?
「お客様、大丈夫ですか?」
そっと肩に触れると、驚いたのか両肩が飛び跳ねていた。伝染するように俺もびくっと体を揺らしてしまう。
「あっ、すみません。コーヒーをこぼしてしまって……」