喫茶リリィで癒しの時間を。
 
“突然現れた男に持っていかれたときのショックは相当なものでした”


 ふと、石川さんの言葉を思い出した。

 あの人にとって百合子さんは、恐らくとても大切な人だった。死んだと聞かされて、思わず泣いてしまうほどに。

 そして、三十年前くらいにこのあたりに住んでいたらしい。それはつまり、今は違う場所に住んでいるということ。


 さらに、ジジイトリオが見覚えのある人物で、三人とも嫌悪感を抱いている……。


 この情報をまとめてみると、ある一つの答えが導き出される。
 あってるか自信がないけど、少なくともあのお客さんは、このまま返すべきじゃなかったんじゃ?


 うまく考えがまとまらないなかでも、直感的にそう思った。


「おっさんたち、ちょっとだけ留守番頼みます!」

「えっ、僕たちが……?」

「すぐ戻るんで!」


 俺はジジィトリオに店を頼むと、エプロンも外さないまま店の外に出た。

 右を見て、左を見て、また右を見て、あのお客さんの姿を探す。


「いた、あそこだ!」


 彼の背中目がけて全速力で追いかける。お客さんはゆっくり歩いていたので、あっという間に追いついた。


 
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