喫茶リリィで癒しの時間を。
 
「お客さん、ちょっと待ってください!」

「……君は、さっきの。どうしました? 私、忘れ物でもしていたかな」

「違うんです。あの、一つ聞きたいことがあって」

「聞きたいこと? なんでしょう?」


 お客さんは、優しい瞳で俺を見つめている。その瞳を見つめ返した瞬間、このお客さんが……さゆりさんに見えたような気がした。


「あの、お客さんは、百合子さんと――」

「――冬馬くん、どうしたんですか?」


“付き合っていたんですか”と尋ねようとしたとき、背後から声をかけられた。
 聞いただけで癒される、鈴の音のように綺麗な声。


「さゆりさん!」


 振り向くと、買い物袋をもったさゆりさんが心配そうな顔をしていた。


「歩いていたら、冬馬くんがお店から飛び出すところを見かけたんです。何かあったのかって追いかけてきたんですよ。あら? そちらの方は?」


 さゆりさんは俺からお客さんに視線を移した。


 
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