喫茶リリィで癒しの時間を。
■すれ違い。
「ただいま戻りました」
さゆりさんが店に入った瞬間、ジジィトリオが一斉に集まってきた。なかなかの迫力だ。
「さゆりちゃん! さっき、多分だけど、さゆりちゃんのお父さんがお店に来てたよ」
「あの憎たらしい顔は誰だったかって、いまようやく思い出したところだ」
「もういなくなってしまったかもしれませんが、早く追いかけたほうが……って、その必要はなさそうですね」
石川さんは、後から入ってきた俺とお父さんの姿を見てほっとしたようだった。
でも、すぐに表情を曇らせてしまう。鈴木のおっさんはあからさまににらんでいて、溝口さんは寂し気に笑っていた。
ジジイトリオがこんな反応をするってことは、やっぱり本物のお父さんなんだ……。
「……どうやら私は、帰ったほうがよさそうですね」
カウンター席に座っていた竹内さんは、テーブルにお会計を置いて立ち上がった。
ライバルだけど、場の空気を読めるいい男だと思った。
どうしてさゆりさんに嫌われていることに気づかないのだろう。不思議で仕方ない。