喫茶リリィで癒しの時間を。
「お客さん、とりあえずカウンター席に座って下さい」
とりあえず俺は、お客さんをカウンター席に座らせることにした。
カウンター席に置きっぱなしのコーヒーカップと、茶色に染まったふきんを片づける。
「やっぱり、ブレンドコーヒーを淹れ直しますね」
「ありがとう」
「……さゆりさんも、コーヒーでいいですか? 」
「あ、はい、ありがとうございます」
「じゃあ、お客さんの隣に座って待っていてください」
俺はさゆりさんから荷物を受け取り、彼女のために椅子を引いてあげた。
さゆりさんは言われるがままに腰をおろし、ずっとうつむいていた。
いつもなら率先して接客するけど、いまはなにも考えられない様子だ。
突然父親が目の前に現れたんだ、動揺するに決まっているか。生まれたときからずっと両親と一緒に暮らしている俺には、わかってあげられないんだろうな。
あれ、でも、さゆりさんはどうしてすぐにお客さんが父親だと分かったのだろう。
子供の勘ってやつか?
不思議だなと思いながら、食材をしまって、サイフォンの準備をした。
コーヒーの芳醇な香りが、この重い空気を和らげてくれたらいいなと願いながら手を動かす。