喫茶リリィで癒しの時間を。
「ブレンドコーヒー、お待たせいたしました」
「ありがとうございます」
まず、お客さんがコーヒーに口をつけた。続いてさゆりさんも「いただきます」といってカップを手に取る。
「……じゃあ、俺も帰りますね。看板はクローズにしておきます」
おっさんの言う通り、邪魔者は退散すべきだと思った俺は、エプロンをはずして帰ろうとした。
「冬馬くん、まってください」
「え?」
さゆりさんはカップをソーサーに置いて立ち上がる。慌てた様子だ。
「よかったら、一緒にいてくれませんか? 私、いまとても動揺していて……とても閉店作業ができる精神状態じゃないというか……その」
目を潤ませて必死にお願いするさゆりさんは強烈に可愛くて、俺の心は今日も鷲掴みにされた。
そして何より、好きな女性に頼られる喜びといったら!
「わかりました」
俺はエプロンから手を離し、そのままカウンター内にとどまることにした。うれしい気持ちをおさえ、できるだけ冷静によそおわなくては。
相変わらず沈黙し続ける二人。何からどう話したらいいのかわからない、という風に見えた。