喫茶リリィで癒しの時間を。
 
……ここは、この場にいることを許された俺が、一肌脱ぐしかない。きっとさゆりさんは、俺に二人の仲をとりもってほしいから引き留めたんだろうし。


「えっと、さゆりさんはどうして、お客さんがお父さんだとわかったんですか?」


「母によく、父の写真を見せてもらっていたんです。家に母の写真とともに飾ってあるので、すぐにわかりました」


「百合子は、君に……私の話をしていたのか?」


 久しぶりにお父さんが口を開いた。よし、いい感じだ。


「ええ。お父さんが“本村優司(もとむらゆうじ)”という名前で、転勤でこのあたりに引っ越してきたときに知り合ったと聞きました」


「たしかに私の名前です。本当に君は……さゆりさんは、私の娘なんだね」


「はい」


「そうか……いや、嘘だなんて微塵も思っていないのだが……実感が沸かないんだ。自分の知らないところで、二人に苦労をかけていたことも信じられなくてね。彼から聞いたけれど、百合子が亡くなったということもまだ実感がないんだ」


 さゆりさんのお父さんはうなだれるように額に手をあてている。


 衝撃の事実を立て続けに知ってしまったら、倒れそうになるのも無理はない。


 
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