喫茶リリィで癒しの時間を。
 
「もちろんです、お父さん。少しずつ、家族になっていきましょう」


 さゆりさんは、もう片方の手を、お父さんの手の上に重ねた。

 彼女の瞳には、うっすらと涙がたまっている。
 あたたかくて切ない、家族を想う涙。思わず俺も、もらい泣きしてしまいそうだ。


「冬馬くん、泣いているんですか?」

「いや、なんか、感動しちゃって」

「ありがとう、私たちのために泣いてくれて。そして、ずっと見守っていてくれて」

「そんなの、お安いご用ですよ! 俺、顔拭いてきますね」


 俺は休憩室に行き、エプロンをはずしてカバンを手に取った。
 もう、二人きりになっても大丈夫だと思ったからだ。

 今すぐには難しいだろうけど、少しずつ二人が家族になれますように。
 いろんな話をして、空白の時間を埋められますように。

 心のなかで願い事をしながら、休憩室の扉をあけた。





 
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