喫茶リリィで癒しの時間を。


 きょろきょろと辺りを見渡しながら歩いていると、ドラッグストアの隣に小さな喫茶店を見つけた。

 古く薄汚れた看板には【喫茶リリィ】と書かれている。

 こんなところに喫茶店があるなんて、今日の今日まで気づかなかった。よっぽど目立たないのだろう。


 一人で喫茶店に入ろうなんて思ったことはないのに、不思議と足が進んでいく。

 煉瓦調の壁に窓はあるけれど、くもりガラスのため店内の様子は見えなかった。


 この中にはどんな人たちがいるのだろう。店員も客も年寄りばかりだったりして。中学生の俺が入ったら悪目立ちするかもしれない。

 最悪、「お前のような若造が来るところじゃない」って追い返される可能性もある。

 そんなリスクを考えながらもドアノブに手を触れた。唾をごくりと飲み込む。

 今日の俺はおかしい。場違いと思うなら帰ればいいのに、どうしてこんな店に入ろうとしてるんだろう。

 普通の精神状態じゃないからか。あるいは、日常から目を背けようとしているのか。

 思いつくすべてのことが、この行動に結びついている気がした。


――俺はただ、現実から逃げ出したかったんだ。




 

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