喫茶リリィで癒しの時間を。
「……あー、うますぎてやべえ」
今までの俺は、献立の中に揚げ物か肉類のおかずがないと母親に文句を言っていた。
「育ちざかりなんだから肉が食べたい」とよく困らせていたもんだ。
でもさゆりさんと出会って、彼女の作る和食を食べるようになってからは、なんでもおいしく食べられるようになった。むしろ肉よりも野菜がたっぷり入った料理が食べたいと思うようになった。
苦手に思っていたコーヒーさえも、少しずつ飲めるようになっている。……砂糖とミルクをたっぷり入れないと無理だけど。
彼女と出会ってから、俺は少しずつ変わってきている。
これも恋の力なんだなぁとしみじみ感じる今日この頃。
「――もっと勉強してから出直してこい!」
店内から怒鳴り声が聞こえてきたのは、さゆりさんとの結婚を妄想して鼻の下を伸ばしていたときだった。
すぐに箸を置き、いそいで表の様子を見に行った。店内を見渡すと、お客さんはあのサラリーマンとおっさんの二人しかいない。
特に店が荒れている様子はなく、さゆりさんに怪我はないようでほっと胸をなでおろした。