喫茶リリィで癒しの時間を。
 
 おっさんのお客さんは勢いよく立ち上がると、そのまま店を出て行ってしまった。


 乱暴にドアを閉められると、身体に響くくらいの大きな音が生まれた。

 あのお客さんの態度や店への文句にはむかついたけど、「きゃっ」と声を漏らし、肩を震わせて驚くさゆりさんが見られて少しだけ得した気分だ。


「ご、ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」


 取り残されたサラリーマンのお客さんは、席から立ち上がって深々と頭を下げた。


「頭を上げてください。幸い他にお客様はいませんでしたし、店が狭いのは本当のことですから」


「そ、そんなことはありません……。他に誰もいなかったのは、偶然ですよね? こちらはこのあたりでも評判の人気店だと、商店街の方々に聞きましたから」


「商店街の方々はうちの常連さんなので、それで薦められたのかもしれません。こちらこそ、ご期待に添えなくて申し訳ありませんでした」


 
 
 
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