喫茶リリィで癒しの時間を。
 
「……はは! そうですか。では、今回はお言葉に甘えさせていただきます」


 このとき、俺は初めてこの人の笑顔を見た。
 思えばおっさんと一緒にやってきたときからずっと、顔が強張っていた。よほど緊張していたのだろうか。

 そんな彼をリラックスさせて、笑顔まで引き出せてしまうなんて、さゆりさんはやっぱりすごい。
 天使でも女神でもなくて、その正体は魔法使いだったりして。


「では改めて……。何か食べたいものはございますか?」


「そうだなぁ。……和食がいいですかね、ご飯とみそ汁。あと、そうだ。煮物、たとえば肉じゃがなんかが食べたいですね」


「わあ、よかった。そのメニューでしたらすぐに準備できそうですよ。少々お待ちくださいね」


 さゆりさんは冷蔵庫にあった肉じゃがを温め直している間に、ご飯とみそ汁、サラダや漬物を用意する。
 十分もかからないうちに肉じゃが定食が完成した。


 味噌の匂いと、煮物特有の甘い匂いによだれが出そう。俺も昼食の途中だったことを思い出した。

……そういえば、さゆりさんはまだ何も食べていない。



 
 
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