喫茶リリィで癒しの時間を。
「こちらメニューになります。今のおすすめはベトナム風のコーヒーで……」
「さゆりちゃん、こんな小僧にコーヒーは早いんじゃないかい?」
しゃがれた声でお姉さんをさゆりと呼ぶ男は、店内唯一のテーブル席に座っていた。テーブルに背中を向けていたので振り向いてみると、そこには見知った顔があった。
「コロッケ屋のおっさん! それに、たい焼き屋と、和菓子屋のおっさんも……」
「お前、一人でいるなんてめずらしいじゃないか。なんかあったんか?」
コロッケ屋のおっさんはずけずけと遠慮なく聞いてきた。話し方も高圧的で嫌な感じだ。
普段は注文と会計で話すくらいだから、嫌なおっさんとは気づかなかった。
「べつに……」
「鈴木さん、他のお客様に絡むのはやめてくださいね。それに、コーヒーを飲むのに年齢は関係ありませんよ」
反論しようとすると、店員のお姉さん、いやさゆりさんが間に入ってくれた。
鈴木のおっさんは「さゆりちゃんがそう言うなら」と呟くと、気まずそうにコーヒーを口に運んだ。