喫茶リリィで癒しの時間を。
「あ、ありがとうございます」
もとの姿勢に戻り、小さく頭を下げてお礼を言った。さゆりさんは「いいえー」と言って、にっこり笑ってくれた。その笑顔はまるで天使のようだ。
こんなに優しくてきれいな人、生まれてはじめて出会った。
「じゃ、じゃああの……ベトナムアイスコーヒーをひとつ」
「かしこまりました」
さゆりさんと話すだけですごく緊張する。ただでさえ大人の女性に慣れてないのに、最高級の美人と会話をすることになるなんてハードルが高すぎる。
胸がドキドキして、手に汗がにじんでいく。それはまるで、試合に出るときのような緊張感と似ている。
……試合、という言葉に今度は胸が傷んだ。
仲間たちの悔しそうな顔を思い出す。
高校でも部活に入ったら出る機会はあるだろうけど、中学ではもうあれが最後だ。あのメンバーと一緒に練習する時間すらない。
「お待たせしました、ベトナムアイスコーヒーです。よくかき混ぜてくださいね」
「はい……」
突然虚無感に襲われた俺は、頼んでいたものが届いても手をつけることができずにいた。
さゆりさんの笑顔に応えることもなく、悔しさを打ち消すように、力いっぱい拳を握りしめていた。
「何かあったんですか?」
「えっ?」