喫茶リリィで癒しの時間を。
 
――午前中でアルバイトを切り上げた俺は、気持ちが沈んだまま高校に向かった。


 喧嘩した友達も来ていたけど、それぞれ別のクラスメイトと行動を共にした。
 結局、その友達とは一言も話をせず、目さえ合わさずに、登校日は終了した。

 こんな気持ちになるんだったらやっぱりサボればよかったと行った後で後悔した。


 その日の夕方、俺は再び喫茶リリィにやってきた。

 店に入ると、お客さんは鈴木のおっさんと溝口さんの二人だけで、石川さんの姿はなかった。いつもきまって三人でやってくるのに、珍しいこともあるもんだ。


「溝口さん、石川さんはどうしたんすか?」


「トラブルがあったとかで、後から行くって言ってたよ」


「へえ……」


 溝口さんのお店は老舗の和菓子屋。饅頭やどら焼き、ようかん、みたらし団子などが売られている。

 ちなみに季節のおすすめは水まんじゅうで、中身はこしあん、抹茶あん、フルーツあんがあるらしい。


 いつも賑わっていて、商店街でも一、二を争う人気店らしいけど、どんなトラブルがあったのだろう。
 和菓子屋のトラブルって想像つかない。

 まあ、遅れてやってくるようだし、何があったのかは誰かが尋ねるだろう。


 




 
< 51 / 176 >

この作品をシェア

pagetop