喫茶リリィで癒しの時間を。
 
「お嬢さん、座れますか?」


 石川さんが尋ねると、女の子はこくりと頷き、背伸びをして椅子に座った。


 カウンターの椅子は背が高めで、たしかに子供には座りにくいかもしれない。

 さすがは紳士な石川さん、細かいところに目が届く。
 子供とはいえ、女性としてきちんとエスコートしているのも素晴らしい。


「私はエスプレッソをお願いします。お嬢さんは何にしますか? 好きなものを頼んでいいですよ」

「…………」


 メニュー表にぽつぽつと落ちる少女の涙。ひっくひっくと、小刻みに背中が揺れている。とても、何か注文できる状態ではなさそうだ。


「そうだ、可愛いお客様にぴったりの飲み物がありますよ」


 空気を変えようと、さゆりさんはあえて明るく振る舞っているように見えた。


 何かを閃いたときのさゆりさんはいきいきとしていて可愛い。いたずらっ子の子供のように見えるのは俺だけだろうか?


 さゆりさんが冷蔵庫から取り出し、女の子の前に置いたのは、なんでこんなものがあるんだろうと以前から疑問に思っていたものだった。

 


 
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