喫茶リリィで癒しの時間を。
「私は、あいといいます」
「あいちゃん、可愛い名前ですね。歳はいくつですか?」
「十一歳、いま小学五年生なの」
あいちゃんはとても礼儀正しくて、さゆりさんの顔を見ながらきちんと答えていた。
石川さんはエスプレッソを飲みながら、あいちゃんの言葉になんどか頷いている。
「あいちゃんは……どうして泣いていたのかな? 話したくないなら、無理に聞いたりしません。でも、誰かに相談することで楽になれることもありますから、よかったら聞かせてください」
さゆりさんの話を聞いて、俺は一年前を思い出した。
部活の試合で失敗し、へこんでいた俺にも同じように接してくれたな。
俺はすぐに心を開いて打ち明けたけど、あいちゃんはうつむいてしまった。
重い沈黙が店内を包んだ。数分だったかもしれないけど、いやに長く感じる。
やっぱり、見ず知らずの大人たちに話す気にはなれないのかな。ここは違う話をして、楽しく過ごしてもらったほうがいいのかもしれない。
ここは一番年が近い俺が、新しい話題を振って雰囲気を盛り上げよう。
そう決めて、小学生でも入れそうな話題を考えていたとき、あいちゃんが口を開いた。