喫茶リリィで癒しの時間を。
俺はエプロンを外して、あいちゃんと一緒に石川さんのお店まで向かった。
店の裏まで回ると、ネイビー色の車が一台停めてあった。丸みを帯びた、レトロでかわいらしい形をしていて、ダンディな石川さんにぴったりだと思った。
「二人は後部座席にどうぞ」
「わかりました。……先に乗っていいよ」
「……ありがとう」
よく考えたら、俺はあいちゃんと直接会話していなかった。一人っ子だから子供の扱いには慣れていないし、隣に座るのはちょっと気まずい。
あいちゃんも同じだったのか、ずっと窓の外の景色を眺めていた。
気まずい空気を察してくれたのか、車で移動している間は、ずっと石川さんが話をしてくれた。
「いじめが原因で自殺をする子供のニュースをよく見ますが、最初は不思議に感じていたんです。どうして一番大事なものを投げ出してしまうのだろう、学校に行かないという選択肢はなかったのかって。
でも、数十年前の子供の頃を思い返してみると納得できたんです。あの頃は、学校が世界の全てだと思っていた。ここで失敗をすれば、人生終わり、くらいに」