喫茶リリィで癒しの時間を。
 
「それは、俺もわかる気がします」

 あの試合で失敗したとき、俺の人生はお先真っ暗と思うほど沈んでいた。
 昨日友達とささいな喧嘩をしただけでもずっともやもやしている。


「でも、実際はそうではないのです。世界は、驚くほど果てしなく広いんですよ。君たちの世界は学校だけじゃないのです。例えば、あの喫茶店だって新しい世界の一つ。

これからいろんな世界に足を踏み入れて、たくさんの人たちと出会い、刺激を受け、成長していく未来が待っています。そのことは忘れないでくださいね」


「……おじさん、ありがとう」


 石川さんの話は抽象的でわかりにくいところもあったかもしれない。
 でも、あいちゃんの心には間違いなく響いたようだ。そして、俺の心にも。

 学校関係で失敗しても、それで人生終わりじゃない。
 家族や違う場所で出会った人たちが、必ず支えてくれるはずだ。

 俺たちは一人じゃないということを、絶対に忘れないようにしたいと思った。


「老人のたわごとだと思って、軽く聞き流してください。そろそろ着くころじゃないでしょうか」


「うん、あの信号を渡ったところなの」


 


 

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