喫茶リリィで癒しの時間を。
  
 さゆりさんによると、さゆりさんは八百屋の娘・実可子ちゃんを赤ちゃんの頃から知っているらしい。年の離れた妹のように可愛がっていたのだとか。


「もしかしたら、さゆりちゃんの言うことなら聞いてくれるかもしれませんね」と石川さんは言う。

 たしかに、実の姉のように慕う人間の言葉だったら、心に響くかもしれない。


「……そうだといいですけど。冬馬くんの意見も踏まえ、もう少し解決策を考えてみましょう」


 結局この日は、話がまとまらないまま解散となった。



――数日後の朝、いつものように喫茶リリィで開店準備をしていた。開店時間となり、外に出て、プレートをひっくり返そうとしていると、なぜかさゆりさんにひき止められた。


「冬馬くん、入り口のプレートはクローズのままにしておいてください」


「え、どうしてですか?」


「今日は……実可子ちゃんをここに呼ぶことになったんです」


「実可子ちゃんって、あの八百屋の?」


 さゆりさんは無言で頷いた。
 大きくてつぶらな瞳は悲しみに揺れている。

 

 


 
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