喫茶リリィで癒しの時間を。

「それでは、サイフォン勉強会を始めましょう。私、サイフォンを使ってコーヒーを淹れる男性って魅力的だと思うんです。頑張って覚えてくださいね」


“魅力的”という言葉が心のアンテナに大ヒットした。

 そうか、さゆりさんはサイフォンを使う男をかっこいいと思うのか。……これはもう、やるしかない。


「よろしくお願いします!」

 
 へこんだと思ったら、急にやる気が満ち溢れてくる。俺は、さゆりさんの言葉に常に心をゆすぶられている。

 これが恋というもんなんだなと実感しながら、さゆりさんの話を聞いていた。


――サイフォンの使い方を教わり、何度か練習をしているうちに二時を過ぎたころ、とんとん、と二度ノックの音がきこえた。


「どうぞ、おはいりください」とさゆりさんが声をかけると、ゆっくりとドアが開いた。


 ドアベルの音と共に入ってきたのは、八百屋のおばさんだ。店からそのまま来たのかエプロンをつけたままだった。

 いつも豪快に笑っているイメージがあるけれど、今日は微かに笑っているだけ。

  
 


 
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