喫茶リリィで癒しの時間を。
 
 百合子という名前は初めて聞くけれど、どんな人物なのかはなんとなく想像できた。

 きっと、さゆりさんのお母さんなのだろう。そっくりだと言っていたし。

 八百屋のおばさんは、百合子と呼び捨てにしているあたり、さゆりさんのお母さんとは友達だったのだろうか。


「さゆりちゃんがこのお店を継いでくれて、百合子もだろうけど、あたしも嬉しかったよ。このお店はあの子の形見みたいなもんだしね。それにさ…………いや、やっぱやめとくよ」


 おばさんは途中で話すのをやめて、何かをごまかすかのようにコーラを一気飲みした。 

 一体何を言おうとしたのか気になるけど、俺なんかが聞いていい話ではなさそうな気がする。


「あー、この鼻にくるかんじ、たまんないねえ」


 これ以降、百合子さんの話が出ることはなく、他愛もない話をして時間を過ごした。


――あっという間に時はすぎ、実可子ちゃんと約束している時間が近づいてきた。


「では、そろそろ私は実可子ちゃんをお迎えに行きますね。白井さん、狭いところで恐縮ですが、休憩室に移動していただけますか?」


  
 
< 75 / 176 >

この作品をシェア

pagetop