喫茶リリィで癒しの時間を。
「逃げ出そうとするってことは、何か後ろめたいことがあるんじゃねーのか?」
小さな背中に向かって質問を投げかけると、実可子ちゃんの足が止まった。
「後ろめたいことなんて、何もないし! っていうか、あんた誰?」
「俺は、喫茶リリィのアルバイト店員、宇垣冬馬十六歳だ。よろしく」
「……よろしく。って違う! わたしのこと一番知らないくせに、偉そうなこと言わないでよね」
「何も知らないからこそ、客観的に見ておかしいと思ったんだろ」
「なんにもおかしくない! それに、どうしてわたしがいじめをしているだなんていうの? なにか根拠でもあるわけ?」
俺のせいなのか、実可子ちゃんはとても興奮した様子だった。荒い口調で話し、攻撃的な目つきで俺を睨んでいる。
やば、逆効果だったかもしれない。
「根拠といいますか、商店街で噂になっているんですよ。八百屋のお嬢さんが、学校でいじめをしていると、ね」
「噂……?」
そんな彼女に優しく話しかけたのは、ずっと沈黙を守っていた石川さんだった。