喫茶リリィで癒しの時間を。
 
 これが、いじめている側の心理なのかと思うとぞっとした。

 だからこそ、簡単に人を傷つけることができるのか。自分たちが正義の味方で、あいちゃんが悪者だと信じて疑わない。

 犯罪をおかす人たちも同じなのかもしれない。なにかと理由をつけて自分を正当化して、平気で道に外れたことをする。

 極端な例かもしれないけど、そんなことを考えてしまった。


「何度も言うけど、どんな理由であれ、人をいじめるのはいけません。もし不満があるなら、正々堂々と本人に伝えるべきだわ。集団で一人を陥れるなんて、絶対にしてはいけません。反対の立場だったらどう思うの?」


 さゆりさんの口調が厳しくなる。優しく説得しても、実可子ちゃんの心に響かないと察したのだろうか。


「……なんでさゆりちゃんにそんなことを言われないといけないの? 関係ないじゃん。親でもないのに!」


「それは……」


「コロッケ屋のおじさんたちだってそうだよ! おじさんたちにわたしを怒る権利なんてないし!」 


 申し訳ないけど、たしかに一理ある。ここにいる俺たち全員は、実可子ちゃんの親でも先生でもない。赤の他人だ。

 彼女を注意する権利なんてないかもしれない。
 一番気がかりだったことを指摘されてしまった。

 
  


 
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